「シンポジウム〈推し活〉を学問する」を開催しました

2025年11月3日(月・祝)、東洋大学白山キャンパス8B11教室にて、「〈推し活〉を学問する 第三弾 推しと推し活を考える」を開催しました。本イベントは、2024年度より東洋大学重点研究推進プログラムとして開始した「責任ある研究・技術開発に向けた多文化的ELSIの組織化」(研究代表者:松浦和也文学部教授)の一環として企画されたものです。
当日は、学内外から多数の参加者が訪れ、満席の会場で熱気に包まれた議論とライブパフォーマンスが展開されました。

〇第Ⅰ部 「推し活」の理論を提案する

冒頭では、津田栞里氏(東洋大学文学部・講師)による開会の辞と報告「不可逆的没入:もう戻れない私たち」が行われました。津田氏は、推し活にハマる構造を「不可逆的没入」と名付け、楽しみとしての推し活がどのようにして“戻れない深さ”を帯びるかを哲学的に問い直しました。「推しの価値判断を自分のものとして内面化していくプロセス」を「推しが外の他者から内なる声に変わる瞬間」と捉え、推し活に潜む倫理的・存在論的な緊張関係を示しました。

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続く稲垣諭氏(東洋大学文学部・教授)による報告「推し活のエネルギーとは何か?」では、推し活にみられる“エネルギー”、つまり、推しへの情熱や創造性がいかに共同体の力を生み出し、また時に個人を消耗させるかが分析されました。そのなかで、推しとの関係性における複数のモード(崇拝、熱狂、恋愛、親心、友愛、アイロニー)が指摘され、さらに0.1gの誤算という推し活の現場に対しては、そこでのエネルギーを「演技性ドメスティック・バイオレンス」と名付け、分析することが提案されました。

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両報告後のクロストークでは、ビジュアル系バンド「0.1gの誤算」ボーカルの緑川裕宇氏をコメンテーターに迎え、ファンの温度差(推し活に向けられるエネルギー量の違い)をどのように捉えているかという話題からバンギャの特性へと議論が展開するなど、活発な意見交換がなされました。

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〇第Ⅱ部 「推し活」の現場に潜入する

第Ⅱ部の冒頭には0.1gの誤算によるミニライブが行われ、ファンのみならず初めてバンドを知る参加者からも大きな歓声が上がりました。最初は戸惑っていた教員・学生が一体となってヘドバン(頭を振る動作)に挑戦する場面もあり、熱狂と笑顔に包まれた会場ではまさに推し活の現場が再現されました。

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河村裕樹氏(松山大学人文学部・准教授)、沼田一郎氏(東洋大学文学部・教授)・山口しのぶ氏(東洋大学文学部・教授)は、この推し活の現場に関する共同報告「ライブ空間の分析」を行いました。本報告では、0.1gの誤算の楽曲「絶望メンブレガール」におけるヘドバンが、エスノメソドロジカルな動作分析、楽曲・歌詞への注目、宗教上の儀礼との比較といった多角的なアプローチから説明されました。歌詞やドラムの拍だけでなく、ギターやベース、観客の動作がどのように複雑に同期・変化していくかを映像資料とともに提示し、「ヘドバンは単なる儀礼的行為ではなく、個人の救いを願う行為でもある」という独自の見解を示しました。

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続くクロストークでは、0.1gの誤算の全メンバー(緑川氏に加え、河村友雪氏、水田魔梨氏、眞崎大輔氏、久保田まさし氏)が登壇し、研究チームとの活発な意見交換が行われました。「ライブでの統一感を何が支えているのか」、「楽曲終盤の“循環構造”は絶望か希望か」といった問いに対し、各メンバーが音楽的意図やステージ上の身体感覚を丁寧に語る場面もあり、研究と実演の交差が実感される時間となりました。

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SDGsの目標

  • 12.つくる責任、つかう責任
  • 17.パートナーシップで目標を達成しよう

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